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2010.08.30 *Mon*

【SS】思いの形-後-【なつまつり】

sasie-kou.jpg

シリーズ6の後編。







「…なぁ、直井。叔母さん達と何処で待ち合わせたんだ?」

直井に先導してもらい店を出たは良いが、中々合流しない。それどころか些か賑やかな地下街から離れた場所に進んでいた為、もしかしたら直井が迷ったのかも、と不安になり声を掛けた。

「……母と健人は、表口の案内板の前に居るそうです」
「じゃあ、逆方向じゃないか?待たせても悪いし、戻らないと―――」

踵を返そうとする音無の腕を不意に直井が掴んで止めた。

「直井…?」
「すいません、音無さん。こうでもしないと、中々貴方は捕まらない人だから」

頭一つ分低い年下の従兄弟が、何かを訴えかける様な瞳で音無を見上げる。

「捕まらないって…どうしたんだよ。なんか…大事な話か?」
「はい。――…前に、貴方が申し出を断った話。覚えていますか」
「…っ、」

焦げ茶の瞳が僅かに揺らぐ。覚えている、と暗にそれを告げている。
一年程度前になるだろうか―――直井家から音無にある提案があったのだ。それは、音無一人でも昔の様に直井の家で暮らさないか、ということ。そうすれば少なくとも今暮らしている借家の家賃や光熱費等の負担は減るし、今ほど身を粉にして働かなくとも――直井家の援助も含めれば、初音の入院、治療費ぐらいなんとかなると。勉強するにしても落ち着いた空間の方が良いだろうと。それらは全て音無の性格を高評価した身内の善意から出たもので、無論何の他意も無い。何より文人もそれを心から望んでいた。
ただ――ネックだったのは、初音の居る病院から遠くなってしまう為、何かあってもすぐには駆けつけられない可能性が高かったのだ。だから音無は断わった。否、そんなのは表面上の建前だったのだけれど。

「先程の話を聞いていて、貴方がまた無茶ばかりしないかと…心配で」
「無茶なんて…俺は大丈夫だって、言っ…」
「―――五十嵐さんから聞きました。先日、過労で倒れたと」
「……。」

音無はバツが悪そうに視線を逸らした。こういう所でばかり直井と五十嵐は妙に連携が良い。

「…うちで暮らすことに、何もデメリットなんて無いじゃないですか。それとも、うちはそんなに居づらいですか…?」
「…そんな事はないよ。世話になった事も、初音をずっと面倒見てくれた事も感謝してる。ただ病院から距離も離れるし、何よりこれ以上お前んちに迷惑は掛けたくない。それだけで…」
「迷惑なんて!病院だって、うちの車を出せばすぐじゃないですか。ねぇ音無さん違うでしょう?貴方は全部一人で背負おうとしてる。初音さんの事も、貴方自身の事も。側に居て優しくしてもらっても、いつもどこか貴方の心は此処に在らずで…っ、僕は、僕らはただ、少しでも楽になって欲しいだけなのに。これ以上、無理してほしくない、だけなのに…っ」
「直井……」

音無に縋ったまま直井は拳を僅かに震わせてうつむいた。どうして伝わらないのだろう、そういった気持ちが見た目にもひしひしと現れて、僅かに音無の良心が痛んだ。
違うんだ。俺は、そんな綺麗な気持ちを向けられて良い人間じゃない―――

「うちに来れば、今より絶対楽になります。倒れることだってなくなる。今貴方が無理して働くより、生活もよっぽど安定して―――」
「―――文人!」
「っ…!」

下の名を突然強く呼ばれて、直井はびくりと肩を震わせた。
昔から音無は本気で怒る時、直井の下の名を呼ぶ。直井はあくまで継ぐべき家柄でしかないから。自分の気持ちを、本当に文人自身に理解して欲しいと願う時だけ使うのだと、前に教えられた。

「…解ってるんだよ、俺も」
「音無、さん…」
「俺一人でがむしゃらに足掻いたってどうしようもないって。…お前んとこに援助してもらって、俺もできる事だけをやって…その方が、もしかしたら初音にとっても幸せなのかもって、解ってる。気持ちだけじゃどうにもならない事は、現実に幾らでもあるんだから」
「っ…一人じゃどうしようもないなんて、ことは…そういう意味じゃ…!」
「…ただ、俺が嫌なだけなんだ。誰かに頼ってばかりの人生なんて…頼らないと、最愛の妹すら守れないなんて、信じたくないだけなんだ。こんな俺でも何かできるかもしれないって、そう信じたい、だけで―――…ごめんな、これは俺の我侭だから」

だからお前が泣く必要なんてないんだよ、そう言って、俯いて肩を震わせている直井の頭を撫でてやった。解っている、彼の気持ちは痛いほど。小さい頃からひよこみたいに音無の後を着いて回って、慕ってくれた実の弟の様な存在。厳しい両親の元で育ったからか、音無に対する甘えの反動はとても大きかった。ごめんなさい、おとなしさんごめんなさい。震えて紡がれる謝罪が痛々しくて、何度も何度も頭を撫でてやった。

そうして直井が落ち着いてから無事に親戚の二人とも合流し、二、三、話を済ませて音無は直井と別れ日向達の居る店の方向へと夜の地下街を歩いていた。文人は特に随分と名残惜しそうにしていたが、比較的性格の落ち着いている弟の健人に頼んだ。一つしか違わないと言う話だが家柄が家柄なだけに、長男である文人にばかり重責がかかり日頃抑えているものが多いのだろうと、だから音無の存在にはとても助けられていますと、叔母と健人の二人から頭を下げられてしまった。あの二人――そして文人自身は本当に音無の事を愛してくれている。感謝しなければいけないのは、好意を無下にしている自分の方なのに――胸の内にまた靄を感じて軽く頭を振った。

「……っ…?」

―――その、拍子に。ぐらりと視界が傾いだ。解る、これは目眩だ。向かいの通行人とぶつかりそうになり壁に手を付いて店と店の間の路地に逃げ込む。
動悸が早い。さっき直井を叱った時に気分が高ぶってしまった。壁に背を預けてずるずるとその場にへたりこんだ。呼吸は荒く手先が自意識に逆らい震えていた。

(…まず…激しい起伏は駄目だって、言われてんのに…)

――五十嵐にも話してはいなかったが、以前倒れた時運ばれた病院で、聞き慣れない名前の病を宣告されていた。ストレス性の…なんだったか。脈や動悸が上がると手足が震え出したり、過呼吸を起こし倒れたりするのだと。
とにかく―――命に関わるだとか、そこまで重い病気ではまずなかったし、激しい運動をしたり精神的にストレスになる様な事を避けていさえすれば薬で治せると聞いた。何より五十嵐に知られたらまた仕事を止められるかもしれない。あいつ、変な所で過保護だからな―――…肩で息を着きながら苦く笑った。
やがて音無の姿に仕事帰りの通行人が気づき辺りがざわめきはじめた頃―――音無の意識はそこでぶつりと途切れた。











「…彼女がなんで外出を許されないか、多分聞いてないよな」

五十嵐の言葉に日向ははっと我に返った。

「あ…あぁ、体がきついから、程度にしか俺考えてなかった…だから具合良い日なら大丈夫かと、思ってて…」
「それもある。…薬が、日の光に弱いんだとさ。抗がん剤に似た成分が使われてるらしいんだけどな。病室の窓からカーテン越しに浴びる程度なら構わないけど…あんまり外出ると、効力が薄くなっちまうんだって」
「―――っ…」

つまり―――彼女を外の世界に連れ出すということは、下手したら寿命を縮める事と同意義。知らなかった事とは言え軽率な発言と取られても仕方がない。五十嵐は、だから、初音を思うが故に音無の身の上話を日向に語って、音無を思うが故に初音の身を案じて、連れ出すのは止めてほしいのだと言うのだ。

「…俺はさ、日向。音無を大事に思ってくれてるお前だからこんな話してるけど」
「…。」
「――…初音ちゃんが居なくなったらって、そのもしもの時を考えちまうと、正直怖い。俺がどうこうじゃなくて…アイツがどうなっちまうかが、怖い」
「…初音ちゃんが、音無にとっての全部、だからか?」

日向の問いかけに五十嵐は目をあわせないまま頷いた。彼の言葉一つ一つから音無を案ずる気持ちが痛いほど伝わる。本当に―――五十嵐は音無と初音、彼らの全てをひっくるめて、大切にしているのだ。

「…音無の背負ってる物は、多分凄く重いよ。お前はそれ、受け止められるか?もしも支える物をあいつが失った時―――…足元からてっぺんまで、あいつの全部、支えてやる自信はあるか…?」

その言葉には―――中途半端な気持ちで、軽々しく関わるのだけは止めてほしいのだという切実な思いが籠っていた。どうして自分なんかに親友の過去や事情を明かしてくれたのかと不思議に思っていた日向も漸く彼の思惑を理解した。

―――どうしたいのだろう、自分は。あの日あの場所で音無に一目惚れをして、運命すら感じて、少しでも近づきたいと願った。それは確か。けれど…それ以上とかその先にある未来なんて考えてこなかった。ただその時々の感情に振り回されて、有頂天になっていて。音無が抱えているものだって、こうして事情を聞かされるまで何も知らなかった。大事な事は、それを知った今、自分がどうしていきたいかだろう。それを、五十嵐は試しているのだと―――

「……俺…は、…」

日向が何か言いかけたその時、店の外が俄かにざわつき始めた。すっかり場は沈黙していたから、通行人の一言にすら過剰に反応してしまった。ざわついてるけどどうしたの?なんかあっちで人が倒れたらしいよ、とか、なんとか。先日音無が倒れた一件もあって、五十嵐には胸騒ぎしかしなかった。

一方ずっと戻って来ない音無を心配していた日向も、突然席を立った五十嵐に何かを感じて荷物を肩に掛けた。音無の荷物もあずかっていたからだ。レジでお釣りは募金しといてください、と多めに札を渡し足早に二人は店を出た。人違いで入れ違いに店へ戻ったらとは思ったけれど、むしろそうであってくれたらと言う望みから来る方が強かった。

「五十嵐!携帯は―――」
「…地下、繋がるとこのが少ねーんだよ。お前も繋げなかっただろ」

それよりもまず大元を突き止めたい―――とはいえ地下街は広い。どこから噂が派生したのかすぐに解らない程度には。通行人を適当に引き取めて聞くと運よく現場を通って来た人間だったらしく場所を丁寧に教えてくれた。軽く頭を下げて言われた場所に走っていると、数分経たない内に人だかりが見えた。人を掻き分けて中心を覗き込み、やはり考え得る内の最悪の事態を目の当たりにしてしまった。

「―――っ音無!!」

壁にぐったりともたれたまま動かない彼に慌てて五十嵐が駆け寄る。続いて日向も。様子を見ていてくれたらしい通行人の男性が「ご友人ですか?」と二人に問い掛けてきた。身元が解る様な物は総て日向の持つ荷物に預けていたらしかった。

「見付けた時は意識が無い状態で…呼吸は安定してるみたいだし、救急車は呼びましたから、おそらくもうじき。」
「…っ…ありがとう、ございます…」

絞り出す様な声で五十嵐は礼を述べた。前に倒れた時も一人だった、一人にさせてしまった。
自分が着いていていられる時だけでも、せめて支えてやりたかったのに。


青い顔で動かない音無と、肩を震わせてうなだれる五十嵐の姿を見て、日向にはただその場に立ち尽くす事しか出来なかった――――。







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初音の薬の話は実際抗がん剤に近い薬打ってるお友達から、音無の病気については実際のうちの親戚がなってる病気から参考にさせてもらいました。
後者は本当に聞きなれない病名です、薬が100人に一人ぐらいで副作用起こして白血球減らすこともあるんだとか。本人いたって元気ですけどね。笑

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